新生音楽(シンライブ)第2回・第3回


『新生音楽(シンライブ) MUSIC AT HOME』4月12日(日) 18:45開場/19:00開演

第2回では各アーティストが自宅で撮影した演奏動画をMCを交えて紹介するという形で行われました。ライブが開催できない中でアーティストが自宅で撮影した映像を公開することも増えていますが「新生音楽」はライブ配信で複数のアーティストの映像を流すことで観客は自宅にいながら他の観客と時間を共有し同じ時間に同じものを見、同じ音を聴くというライブのような空間をインターネット上で作り出すことに成功しています。またMCの二人も自宅から配信することによって「家で楽しむ」という楽しみ方が強調されています。

 


『新生音楽(シンライブ)』vol.3 “交感・not alone” 5月31日(日) 19:45開場/20:00開演

第3回では「ビジュアル×サウンド」とテーマにミュージシャンが写真家やダンサーとコラボした作品を公開。普段のミュージシャンのライブではなかなか見られないようなコラボレーションや表現が模索されています。

新生音楽(シンライブ)第1回


『新生音楽(シンライブ)』 第1回 高野寛×原田郁子(クラムボン)

 

音楽の配信ライブは数多くあれど「新生音楽」の特異な点はドキュメンタリーのような映像表現と繊細な音楽表現です。上記の第1回ではレコーディングスタジオから無観客生配信が行われました。アーティストの前にあるマイクに入った音声はそのまま視聴者の耳に流れ込み、アーティストがヘッドホンで聴いている音と全く同じ音を聴くことができます。またカメラワークも秀逸でスタジオにいる二人の空気感や息づかいを画面越しでも感じ取ることができます。画面越しで観客として聴くというより自分がそのスタジオを漂うほこりになってその空間に立ち上る音楽に触れている感覚は唯一無二だと思います。

コンセプト&ステートメント

2020年春。新型コロナウイルスの感染拡大によって音楽や演劇などのライブエンターテイメントはピンチに追い込まれました。ライブハウスや劇場でのクラスターの発生がニュースで取り上げられると、次第に世間からの風当たりが強くなっていました。

ライブエンターテイメントはネットでの配信などオンラインへの切り替えを余儀なくされました。画面を挟むことによって「その日」「その時」「その場所で」「その人々で」といったライブ作品の唯一性からアウラが失われてしまったと感じることもありました。音楽や演劇は生で観るのと画面越しで観るのとではまるで感じ方が異なります。生の芸術は常に一期一会。同じ曲であっても同じパフォーマンスは二度とないのです。

しかし、中には画面越しやオンラインでしかできない表現を模索し表現を続けた人たちがいます。彼らの作品には「オンラインだからこそできる」「画面越しでないとできない」といったこれまでとは異なるアウラが感じられます。またオンライン化することにより展示的価値が生まれ地方在住の方でも気軽にライブに参加できたり、会場のキャパシティに縛られることなく多くの人が作品を楽しめるようになりました。

またインターネットを使うことでアーティストと観客との距離がかえって近くなったと感じるような作品もありました。アーティストも観客も自宅からインターネットを介して繋がる。ステージの上と客席という関係性からネット上の一個人というフラットな関係に変化していたように感じます。みんな家にいるけどみんなで同じ空間を共有しているような感覚はガブリエル・タルドの「肉体的には分離し、心理的に結合する個人」という言葉をほうふつとさせます。

さらに特徴的なのが無料公開されている作品の多さです。コロナ禍でやりたくてもできないことの多い中で「収益にならなくてもいいからとにかく作品を作りたい!」という思いが生まれ、資本主義的な芸術の商業化からの脱却に近い動きが見られたのではないでしょうか。さらに無料公開されている作品であっても「スーパーチャット」という投げ銭システムやオリジナルグッズを販売することで作品にお金を払うのではなくアーティストへの応援という気持ちを込めた金銭のやりとりが増えたように感じます。

今回の展示ではオンラインならではの芸術にスポットを当てました。これらは劇場やライブハウスが使えないときの妥協案ではなく、新たな芸術だと考えます。ライブハウスや劇場も制限付きで再開しつつありますが、コロナ禍で生まれた新しい芸術の形としてこの展覧会で記録を残せればと思います。