星野源「うちで踊ろう」

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コロナ禍での文化表現として最もポピュラーなものとも言えるであろう、星野源の「うちで踊ろう」。この「うちで踊ろう」の「うち」はダブルミーニングになっています。一つは家で、おうちで、ステイホームでという意味での「うち」。もう一つは内と外の「うち」です。これは「Dancing On The Inside」という英題からも明らかです。スーパーの店員や医療従事者などうちにいたくてもいられない人たちには「おうち」にいようとは言えないので、その人たちも参加できるようにと「心の中=心のうち」で踊ろうという意味合いが込められています。英題が「Dancing At Home」ではなく「Dancing On The Inside」という点から二つ目の「心のうちで踊ろう」というのがより本質的なメッセージであると考えられます。

Instagramで本人が「誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?」とコメントをつけて動画を投稿。すると瞬く間にアーティストを始めとする様々な人たちが「うちで踊ろう」をアレンジしたり、コラボした動画を投稿しました。これは自身の動画をフリー素材として配布することで展示的価値が生まれ多くの人が楽しめるようになったのだと考えられます。


星野源【うちで踊ろう】 村上基×STUTS×武嶋 聡


うちで踊ろう + September [EW&F]

その反響の多さから動画はTwitterにも投稿され、楽譜も公開されました。

 

 

人気が高まるに連れて「ネタ動画」と呼ばれるような音楽とは無関係の、ただ星野源の動画を利用しておもしろがるだけの動画も増えていきました。


ポケカで不正する星野源

 

これらの「ネタ動画」の発端と言える動画の制作者は「上下に分かれているという部分のみを模倣し、なんの共感性も生まない、ただただ下品な動画がたくさん出てきた」という理由で動画を削除しています。

 

「うちで踊ろう」の波は政界にも到達します。当時の安倍首相は星野源の動画を使った動画をTwitterに投稿。しかし様々な批判を呼びます。

 

 

一つは「#うちで踊ろう」をつけていない、星野源への言及がないこと。スレッドで補足はされていますが動画の載ったツイートの10分の1ほどのリツイート数で、動画の載ったツイートの拡散力には遠く及びません。

また「うちで踊ろう」の意図をくみ取れていない点も批判されました。「うちで踊ろう」は「『うちで踊ろう』を使ってこんなものを作ったんだけどどう?」という一緒に楽しいことがしたいという気持ちで広がっていきました。しかし安倍首相のツイートからはそれが感じられません。国民に対するメッセージの添え物として「うちで踊ろう」を利用したのです。

これに対して星野源は「僕自身にも所属事務所にも事前連絡や確認は、事後も含めて一切ありません」と回答。認めも拒絶もしなかったのです。ヨーロッパでは「アームズレングスの原則」などに見られるようにナチズムの反省から第一次世界大戦後、政府による文化政策への介入を拒絶する動きがありました。日本でも「音楽に政治を持ち込むな」と言われることも少なくありません。しかしヨーロッパと大きく異なるのはアーティストが政治について語ることすらタブー視されている点です。今回星野源が示したような「何も言わない」「どちらでもない」「あくまで中立」という考え方が日本における文化と政治との関係性を象徴しているように感じました。